2026年、日本の製薬業界で需要が高まっている職種・スキルとは?
2026年3月、米国の大手製薬企業イーライリリーは、日本国内の工場に200億円を投資し、新薬の供給体制を強化する計画を発表しました。
世界の製薬会社が投資先や新製品の投入先をより慎重に選ぶなかでも、日本は引き続き戦略的に重要な市場と位置づけられています。一方で、日本の製薬業界を取り巻く事業環境は変化しており、企業が求める人材にも変化が見られます。
特に、価格設定、マーケットアクセス、上市の成果、そして事業成果に直接影響を与えるポジションへの注目が高まっています。
こうした変化は、製薬業界の採用・転職市場にどのような影響を与えているのでしょうか。
そこで、Morgan McKinley Japanでライフサイエンス領域の採用を担当するディレクター、James Craggsに話を聞きました。
日本の製薬市場の動きと採用への影響
「日本では長期的に医療ニーズが見込まれており、製薬市場の需要は引き続き底堅い状況にあります。高齢化の進展により、特にがん、希少疾患、慢性疾患などの領域で、革新的な治療法へのニーズが高まっています。
一方で、医薬品価格をめぐるプレッシャーは今後も強まることが予想されており、2026年には追加の薬価引き下げも見込まれています。近年の規制改革によって、開発初期段階への参入は以前より容易になったものの、 商業環境はより厳しさを増しています。
こうした環境のもと、日本市場で活動する製薬企業では、効率性と投資対効果(ROI)をより重視する傾向が強まっています。単純に人員を増やすのではなく、償還や薬価に影響を与える、上市を成功に導く、科学的なエンゲージメントを強化する、あるいはデータから実行可能なインサイトを生み出すなど、事業に具体的なインパクトをもたらせる専門人材を優先して採用する企業が増えています。
つまり、日本の製薬業界では、採用を広げるのではなく、戦略的に重要なポジションに絞って人材を採用する傾向が強まっています。 」
では、2026年に企業が特に注目しているのは、どのような職種なのでしょうか。
日本の製薬業界で需要が高まっている5つの職種
James Craggs によると、現在、日本の製薬業界で特に需要が高い職種は以下の5つです。
- マーケットアクセス・プライシング
- メディカルアフェアーズ
- データ・AI・アナリティクス
- 薬事・CMC
- コマーシャルエクセレンス・ローンチ
いずれも医薬品へのアクセスや収益、そして全体的な事業成果に直接影響することから、2026年の採用計画の中心となっています。
1. マーケットアクセス・プライシング
マーケットアクセスやプライシングは、医薬品が日本市場で商業的な成功を収められるかどうかを左右する重要な領域です。
製薬企業では、価格戦略や償還の仕組みを理解し、複雑な医療制度のなかで製品価値を維持できる人材への需要が高まっています。
商業上の目標と、規制や市場の実情とのバランスを取りながら、主要なステークホルダーに働きかけ、具体的な成果につなげられる人材は依然として不足しています。
マーケットアクセス人材の年収水準は1,000万円前後ですが、希少なスキルを備えた人材には相場を上回る報酬が提示される傾向があります。企業やポジションによっては、基本給2,200万円近いオファーとなるケースもあります。
2. メディカルアフェアーズ(MA)
日本の製薬企業では、メディカルアフェアーズのチームを強化する動きも見られます。
求められているのは、科学的な信頼性を高め、製品のポジショニングを構築し、医療関係者などのステークホルダーと効果的にエンゲージできる人材です。
メディカルアフェアーズ・マネージャーの基本給は1300万円前後が市場水準となっており、国内外のチームと連携しながら科学的な情報発信を行える人材については、1,800万円台後半のオファーとなるケースもあります(※当社調べ、2026年1月時点)。
3. データ・AI・アナリティクス
もう一つの注目領域が、データ・AI・アナリティクスです。
これらの能力は、ターゲティングの精度向上、より効果的な計画策定、そしてデータやエビデンスに基づく上市戦略の実現に不可欠となっています。
企業が求めているのは、データドリブンなアプローチを活用して意思決定を改善し、より効果的なセグメンテーションを実現するとともに、業務効率を高められる人材です。
特に、ビジネス上の課題を理解し、それを実践的な分析ソリューションにつなげられる人材への需要が高く、魅力的な報酬パッケージが提示されるケースも増えています。
製薬業界におけるデータ・AI・アナリティクス人材のオファーは、ジュニア層で800万円程度、シニア層では2,500万円程度となるケースもあります。
4. 薬事・CMC
日本の製薬業界では、複雑な国内要件や規制環境の変化に対応するため、薬事(RA)およびCMCの専門人材が重要な役割を担っています。
承認取得やコンプライアンスの確保、製品ライフサイクル戦略の推進において、こうした専門性は欠かせません。
薬事マネージャーの基本給は、市場水準で1500万円前後となっています。さらに、承認プロセスを適切に進め、技術文書を管理し、製品の上市成功や長期的なパフォーマンスを支える薬事戦略を実行できるスキルを備えた人材については、企業や条件によっては2200万円近いオファーを獲得するケースもあります(※当社調べ、2026年1月時点)。
5. コマーシャルエクセレンス・ローンチ
コマーシャルエクセレンスやローンチ関連のポジションも増加しています。
背景には、営業活動の効果を高め、上市計画を支援し、製品発売の段階から営業組織が成果を上げられる体制を整えたいという企業のニーズがあります。
企業が求めているのは、新製品の市場での立ち上がりを迅速に実現し、部門横断型のチームを調整しながら、限られたコマーシャルリソースを最適に活用できる経験豊富な人材です。
なお、コマーシャルエクセレンスの部長クラスの年収は、2,000万円前後が市場水準となっており、企業や条件によっては3,000万円近い水準となるケースもあります(※当社調べ、2026年1月時点)。
データ・テクノロジー×ビジネススキルに注目
製薬業界の採用市場における最も大きな変化の一つが、データとテクノロジー関連のスキルに対する需要の高まりです。
製薬各社は現在、より精度の高いターゲティング、効果的なセグメンテーション、そしてより効率的な計画策定を目指しています。その実現に向け、データやAIの活用も、患者の特定から上市戦略、営業生産性の向上まで、あらゆる領域で進んでいます。
こうした流れを受け、採用市場でも、単にデータやテクノロジーに詳しいだけでは十分な評価を得ることが難しくなっています。
Craggsは次のように指摘します。
「単にアナリストやデータサイエンティストを増やせばよいということではありません。製薬企業は、ビジネス全体の精度を高めようとしているのです」
そのため、現在特に需要が高いのは、技術面だけを担う人材ではなく、データをビジネス上の課題やニーズと結びつけられる人材です。
2026年の製薬業界の人材動向
日本の製薬業界では、特にマーケットアクセス、メディカルアフェアーズ、薬事などの専門性の高い領域において人材不足が続いています。
同業他社で同等の経験を持つ「理想的な候補者」が容易に見つからないケースも少なくありません。
こうした状況から、特にデータ、デジタル、戦略などのポジションでは、製薬業界以外の隣接領域にも採用対象を広げる企業が増えています。
ただし、製薬業界の中核的な機能については、業界固有の専門知識が依然として重要視されています。
また、現在特に高く評価されているのは、複数の部門にまたがって仕事を進め、国内外のチームと効果的にコミュニケーションできる人材です。
日本市場では、専門知識に加えて、部門を越えて協働する力やコミュニケーション能力を兼ね備えていることが、特に大きな強みとなります。
製薬業界の転職希望者が重視しているポイント
では、製薬業界の転職希望者は、転職先を選ぶ際にどのような点を重視しているのでしょうか。
もちろん年収は重要な要素ですが、それだけが判断基準というわけではありません。
日本の製薬業界で働くプロフェッショナルは、会社の安定性、経営陣やリーダーシップの質、製品パイプラインの強さ、そしてそのポジションでどれだけ重要な責任を担い、社内でどの程度の存在感を発揮できるかなどをみている、と Craggs は言います。
また、柔軟な働き方へのニーズも高まっています。
Craggs によると、候補者は転職のリスクを適切に把握したいと考えており、応募する企業が日本市場に本当にコミットしているのかを知りたいと思っています。
そのため採用企業は、自社の採用ポジションの魅力や背景をしっかり伝えるべきです。日本市場がグローバル戦略のなかでどのような位置づけにあるのか、製品ポートフォリオはどの程度強固なのか、そして採用する人材にどの程度の裁量が与えられるのか。こうした点を明確に示すことが重要です。
採用プロセスの速さと明確さも、採用成功を左右する要素です。
慎重な採用市場では、選考の遅れが候補者の迷いにつながり、場合によっては他社へ流れてしまう可能性があります。
これからの製薬業界で求められる人材とは
こうした市場環境の変化は、企業と候補者の双方に新たな対応を求めています。
企業にとっては、目の前の採用ニーズを満たすだけでなく、マーケットアクセス、データ・AI、ローンチなど、今後の事業成長を支える領域にどのような人材が必要なのかを見極め、中長期的な人材戦略につなげることが重要です。
一方、転職を目指す方にとっては、自身の専門性を深めるだけでなく、データやデジタル、部門横断型のスキル、国内外のチームとの協働力など、複数の領域をつなぐ力を身につけることが、今後のキャリアの選択肢を広げることにつながります。
変化する市場環境を正しく捉え、企業と候補者がそれぞれの立場から次の一手を考えることが、これからの製薬業界で成長するための鍵となるでしょう。




